田口先生を偲ぶ | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 田口先生が、6月2日、享年88歳でご逝去された。謹んで哀悼の意を表します。
 古くなるが、田口先生を名古屋に招聘して、51年に品質管理特別研究会(田口研究会と呼ばれた)、53年に実験計画法コースが始まった。そして、数年前、病に倒れられるまで、田口先生には、中部品質管理協会で、50年以上にわたって品質工学の教育と普及にご尽力いただいてきた。心より感謝申し上げたい。
 トヨタグループでも、SQCを生産に活用するために始めたSQC研究会の工程解析分科会では、実験計画法の活用と、田口先生の「実験計画法(上、下)(丸善)」の演習問題の解答作成について度々ご指導をいただいた。中部地区では、多くの技術者が先生の教えを受け、品質改善、コストダウンのために実験計画法を応用してきた。
 私は、デンソーに入社してすぐの現場実習中に、直交表という実験のための道具があることを知り、関心を持った。そして、QCを推進する部署に配属され、長年、田口先生を師と仰ぎ、多くのご指導を得る機会を持つことができ、実験計画法、品質工学を勉強してきた。思い出の一つに、82年、Ford社の品質管理視察チームがデンソーを訪問したとき、偶々、実験計画法の教育で来社されていた田口先生を紹介したことがあった。これがきっかけとなって、先生が自動車をはじめアメリカの企業に品質工学を教えられるようになり、タグチメソッドとして高く評価され、自動車の殿堂入りを果たされた。戦後、日本の自動車産業はアメリカから、多くの自動車の基幹技術を学んできたが、田口先生の貢献によって恩返しをすることができたといえる。
 田口先生は、戦後、日本の品質管理の発展に大きな貢献をされてきたが、その仕事は、直交表、SN比、損失関数、工程調節、MTシステムの共通技術に要約される。その歴史は、先生の「タグチメソッド、わが発想法」を読むとよくわかる。
 この本で、戦後、国民栄養調査の仕事をされたことがあり、前例もない中で答えをだすためには、数理統計の知識だけではなく、実際問題に対する応用力が求められた、と述べられている。田口先生は、この研究姿勢から多くの手法を開発してきたといってよい。現実の実際問題をとらえてそれにあった手法を開発したのである。先生の本を読めばわかるとおり、すべてが実際の数値データの解析で解説されている。デンソーでICの製造工程の品質問題で指導をうけたとき、2桁にまたがるばらつきの大きいデータ解析では、先生が開発した累積法による解析を教わった。工程連結の理論があるが、おそらく、デンソーでご覧になった、トランスファーラインの全体稼働率を高めるためにはどこに中間在庫を置いたらよいか、という実際問題からであろう。
 アメリカ同時多発テロ事件のとき、先生はこの類の問題の予測と対策にはMTシステムが有効だと言われた。今、日本は、グローバル化による製品技術力の相対的な低下と、福島原発による安全とエネルギー問題という大きな技術課題に直面している。先生がご健在だったら、これらの問題の解き方についてどう提言されただろうか。田口先生が開発された手法をさらに発展させ、実際問題に対して知恵を出し、解決できる手法を発想していくのが、あとに残された者の使命である。 (杉山 哲朗)