新製品・技術の開発と信頼性工学 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 著者の宮村 鐵夫先生は、日本の品質管理の発展の中で、信頼性工学の分野で先駆的な貢献をされた真壁 肇先生の一番弟子といえる。会社時代、新製品開発の進め方、SQCの活用についてご指導を受ける機会があったが、宮村先生の研究、業績だけでなく、人柄までがにじみ出ているライフワークといえる書である。
 原子力発電をはじめ、技術が高度化した現代社会においては、技術のメリットだけでなくデメリットの評価を十分に行って、限界に対する適切な余裕を確保し、確認する重要性が増している。エネルギー、物質や情報の流れに着目して負の機能をマネジメントに焦点をおく信頼性工学は、評価と設計(あるいは計画)において不可欠である。「俯瞰的な視野で多面的に思考する仕事のデザインと進め方」をコンセプトとし、「新製品と新技術開発」における信頼性工学の役割と活用について解説されている。その特徴を挙げると、
・企業における信頼性向上の実践的研究だけでなく、製造物責任法や消費生活用製品安全法の制定や、宇宙開発委員会における事故調査等、社会との関わりの中で、信頼性、安全性を研究し、普及されてきた過程と事例が紹介されている。
・固有技術による裏付けを強調した信頼性工学である。例えば、FMEAを「設計や計画段階で、引き算の考え方で、丁寧な仕事を進め、設計や計画段階における負の出力を許容レベル以下に低減し、技術的な検討不足で事後に問題が発生することを防止する手法」と定義し、故障モードの発想の思考プロセスを多くの事例を使って技術的に解説した内容は、他書に類を見ない。すなわち、図面、資料を整理し、製品の要求機能を明らかにし、機能を果たすための原理・方式、構造・形状を見える化、力、熱、振動、電子、イオンの流れを考察して、機能レベルの故障モード、モノレベルからの故障モードを考え、故障メカニズムについても過大応力によるものと継続的ストレスによるものから検討する。
・学者ならではの研究成果として、多くの文献から新しい知見が紹介されている。① 設計の仕事は、顧客要件を実現する逆問題解析で、最適化による解の一意性を実現するのが設計のミッションである。② 品質保証とは、「致命的な故障を定義して、合理的な期間故障がないことを保証する」ことであり、仮説、仮説の検証、仮説の修正、再検証の繰り返しによる、abductionとしての仮説検証型思考プロセスが必要である、等。
・例えば、価値ある製品・サービスを創造するコンセプトを、①市場・顧客、②技術、③人・組織のトライアングルの概念図で考える、新製品開発や工程管理のプロセスと要点を示すフローチャート等、多くの図表をふんだんに使って判りやすく解説している。
・なるほどという、考え方の定義、言葉がちりばめられている。継続的な改善とは、単に個別の改善を継続することではなく、企業としての各々の活動の経験が、次の活動に活かされ、今回より次回、次回より次々回の活動がより効率的かつ効果的に行われるように取り組むことである。PDCAのサイクルで、Cであるフィードバックが最も重要で、フィードバックは明日への付加価値を付け、明日に架ける橋を築くことにある、等。
 1000ページもの力作であり、値段も16000円と値を張るが持っていて損をしない。技術者の座右の書として、新製品開発に活用していただきたい。  (杉山 哲朗)