よい製品とは何か | 一般社団法人 中部品質管理協会

一般社団法人 中部品質管理協会は、品質管理を中心とする管理技術・マネジメント手法を教育・普及する専門機関です。QC検定®対応講座も開催しています。

ホーム > よい製品とは何か

スタンフォード大学伝説の「ものづくり」講義とあり、章末には、読者に考えさせる演習問題もある。著者アダムズは、JPL(ジェット推進研究所)でエンジニアとしての経験をもち、スタンフォード大学で、機械工学、経営工学からデザイン思考(製品だけでなく、ビジネス、社会、環境までの問題を解決する)の研究、人材育成に携わってきた。
1980年代、アメリカは日本のTQMの長所である、経営者から作業者までの全員参加のQC、サプライヤーとの協力等、を学び、製品の信頼性向上、コストダウンに努めてきた。しかし、著者によれば、これは製造品質で、よい製品とは、性能・機能、信頼性、適合性、サービスを越えた、エレガンス、愛着を含めた全体品質である。論理性、定量性に加えて、創造性、情緒性といった測定困難な要素にも目を向けていく必要がある、と説く。
1.パーフォーマンス、コスト、価格。最近の製品は、やたらと通知音、警報音がついたフィーチャークリープ(不必要な機能が製品にしのび込む現象)の製品が多い。「欲しいこと、だけでなく、欲しくないこと」を考えなければならない。例えば、大型・高性能の農業機械は故障すると使いものにならない。そして、製品寿命と寿命までの、修理、サービス、ランニングコストを考えた、コスト、価格を考えなければならない。
2.人になじむ製品。身体、感覚、知覚とのヒューマンフィット、脳と機械のインターラクションを考慮しなければならない。脳の処理限度を超えた電子機器の操作量、シミュレータによる訓練も困難とされる、原子炉の故障時のオペレータ操作は、人に親切だろうか。また、人は好んで危険な行為を試みる動物である、といったことも考慮する必要がある。
3.クラフツマンシップ(作り手の喜び、使い手の喜び)。日本車がアメリカで成功した理由の一つに、ドア、トランク、パネルの隙間の均一性に代表されるフィット・アンド・フィニッシュがあった。組立時の損傷、表面処理の仕上がりでさえ耐久性に影響する等、品質はディテールに依存する。日本の人間国宝は、クラフツマンシップを育てると感心する。
4.製品、感情、欲求。アップルの成功の一要因に、機能に加えて人に好まれる見た目や操作感を挙げる。マズローの欲求説、顧客要求を理解する心理学の研究が紹介されている。
5.美、エレガンス、洗練。絵画、彫刻、音楽等、人は美を追求してきた。工業製品にも、ライン、フォルム、色、テクスチャー、留め具等の美が求められる。繰り返し使用し、単純化され、ムダが削ぎ落とされたモノにエレガンスを感じる。エレガンス、洗練は、言葉では十分理解できないが、技術者は、その大切さを認識し、体得しなければならない。
6.象徴と文化的価値観。パワー、スピード、贅沢な装備に象徴されるアメリカ車がその例であるように、製品は、人の価値観を物語り、その人の帰属する集団の文化を象徴するものである。宣伝やブランド構築はそのための手段である。一方、スポーツ製品に代表されるように、今後、世界標準化に向かう製品もあることを認識しなければならない。
7.地球という制約。言うまでもなく、製品が地球と人類に及ぼす影響を考慮することである。環境変化、人口増加に対し、製品の使用、リサイクル、廃棄は、生活圏と共存し、長期的持続可能性を高め、さらには人の生活を向上させるものでなければならない。
 よい製品は、付加価値を高め、つくる人の作業を楽にして、誇りを感じさせてくれる。さらに、使う人に楽しさと同時に、社会的責任を果たしている気分にさせてくれる。「よい製品は、善である。いい仕事をしよう。」というのが著者の結論である。  (杉山 哲朗)