日本では、猿真似と言うが、アメリカは猫が真似をするらしい。今まで、日本は模倣の国と言われてきた。8世紀には、遣唐使によって中国から諸制度を学び、明治維新では、欧米の政治、軍隊、教育のモデルからアイディアを模索、自国に合わせた形で近代国家への道を開いた。さらに、戦後は、アメリカの工業を学び改善し、(例.Big3の自動車技術から省燃費車、環境対応車の開発、トヨタ生産方式の創出)飛躍的に経済成長を実現してきた。しかし、今、日本は、「失われた20年」と言われるように、グローバル経済から失速してしまった。著者は、その要因の一つに、日本の強みであった模倣能力を捨て去ってしまったからではないかという。
これからの時代は、①グローバル化により、市場が拡大し、多様性が高まることから寡占状態が崩れていく、②知識の形式知化により、知識の利用、移転のスピードアップ、精度も高まり、複製することも容易になる、③ブランド力の優位性、特許の効力が弱くなること等から、ますます模倣が進展する。イノベーターは、自分が起こしたイノベーションの現在価値は2.2%に過ぎない。逆に、模倣コストはイノベーターの投じたコストの60~75%という。そこで、他社のアイディアを模倣することにより、自らのアイディアを生み出すことにも長けた、イノベーターでもあり、イミテーターでもある、イモベーターを目指せと言うのが著者の主張である。
模倣とは、①模倣の特質を進化させて活かす、②幅広く模索し、リアルタイムで、③市場との対話で、環境に合わせてすばやく行動する、ことであり、技術、素材、アイディアから、同じものの反復、差異を含む反復(変形)、インスピレーションの模倣によって、新しい製品、技術を生み出すことである。
今をときめく成功企業も模倣によって成功してきた。サウスウェスト航空はポイント・ツー・ポイントの超格安航空ビジネスを創出したが、そのモデルを活用した航空会社が多い。アップルは、IBM、ゼロックスの技術を数多く取り入れて模倣しており、自社のアイディアと他社の技術を縫い合わせて、エレガントなソフトウェアで、スタイリッシュなデザインをまとめ合わせたイミテーションの達人と言われる。日本でも、キャノンも創業間もない頃は、名機といわれるものをデッドコピーしたし、「お・値段以上」のニトリも、アメリカのチェーンストアのオペレーション、自動車メ-カーのQCを取り入れて海外の自社工場で生産を行っているという。
模倣の要点は、車輪の再発明はするな。既にある車輪より質が良い、安いものを発明する。そして、他の技術と組み合わせて有用なモデル、装置を発明する、ことである。また、模倣の目標を正しく変換して、原型に観察される望ましい結果をもたらすコピーを作り出す。そのためには、原型と模倣についての環境、要素、特性を調査し、モデルの因果関係を正しく解析し、自社の脈絡に合わせて模倣しなければならない。GEで成功した人事制度は必ずしもフォードで成功しなかった、という例もある
日本人はもともと模倣の上手な国民であったし、トヨタ生産方式の自主研のような、実践をベースに謙虚に他社に学ぶ、という異業種交流のしくみも沢山ある。イモベーションの戦略と方法を学び、新製品、新技術を生み出して欲しい。 (杉山 哲朗)