ソニー 盛田 昭夫
平成28年10月
久々のQCにおける新しい考え方の紹介で、新鮮な知識を得ることができ、この分野の研究のさらなる発展を期待したい。著者は、人と機械の信頼、ヒューマン・ファクターに関する研究者である伊藤誠先生(筑波大学)である。
信頼性と信頼は違う。信頼性(Reliability)とは「アイテムが与えられた条件のもとで、与えられた期間、要求機能を遂行できる能力」と定義され、客観的に評価可能である。信頼することは「信(Believe)」じて、「頼(Rely)」することである。信じるは、期待通り起きることを確信していることである。思考の中に、何らかの形でイメージされているモデルを考えている。簡単に言えば、信頼性は、技術で捉えることができ、信頼は心理的なもので、安全と安心も同様な関係と考えてよいだろう。
その典型的な例として上げているのが、2010年のプリウスのリコール問題で、
技術的にいえば、時速20kmで緩やかに一定に減速すれば、12.3mで停止する。しかし、ほんの一瞬であるがブレーキが効かない印象をドライバーに与える時があり、(保安基準は満たす)ユーザーの不信感がリコールを引き起こしたのである。
高信頼性は、高信頼を保証しない例として、次が挙げられる。
・ユーザーが機械の機能を誤解している場合、使ってもらえない。
・使用条件が、機械の持つ能力限界に比べて広い場合、十分な信頼性が得られない・
・設計寿命を超えても機械が使われていて、使えなくなって壊れた機械を目前にすると、ユーザーは文句を言う。
すなわち、信頼性の要件である機能、使用条件、目標寿命に、つくる側と使う側とにギャップがあると、こういう事態を生ずる。
自動車のACC(Adaptive Cruise Control)が著者の研究テーマの一つであり、それを題材として、適切でない信頼、すなわち、盲信、過信、不信を図で判りやすく解説している。盲信→ACCは、先行車減速のあらゆる場合に対して減速制御を行ってくれる。過信→ACCは、走行車両に追従する機能を持っているから、前方に止まっている車両に対する衝突の危険も回避してくれる。不信→ユーザーにとって正しく働いて欲しい時に、適切な結果を得られないと不満を与えてしまう。
信頼と誠実さの関係。「機械は誠実な目的をもってつくられている」ということを、ユーザーは暗黙理に理解している。ところが、排ガス検査やくい打ちデータの不正が社会問題になったように、組織への信頼が前提になる。
不信感の増大するメカニズム。風評被害のように、不信感が個人の経験、マスメディアを通して社会的に波及していくことを「リスクの社会的増幅」という。
信頼と使用は鶏と卵の関係。製品、機械の能力は、「先ずは信頼して使ってもらう」ことから始まる。信頼は結果でもあり、原因でもある。リスク上、失敗が起きにくい機能や製品を限定して、少しずつ市場に出していく戦略もある。
他にも「信頼を失うとき」、「信頼を得るための方法」が、日常生活とのアナロジーで紹介されており、お客様満足のQCアプローチとして参考になる。 (杉山 哲朗)