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{ ロケット・ササキ }

コーヒーカップ

平成28年10月

著者、西垣 通氏は、理系のコンピュータ工学研究者から転身し、情報社会や情報文化を論じる文系の学者である。データ解析、AIに関する幅広い知見から、指数関数的に発展するビッグデータとAIの動向について、明快に整理分析し、技術万能主義に警鐘を鳴らし、未来への可能性を提示する。

(同著者による「集合知とは何か」-ネット時代の知のゆくえ-も参考になる。)

1.ビッグデータについて

ブログ、SNS等のウェブとスマホによって、ますますデータはビッグになり、さらには、IoT(モノのネットワーク)によって、工場や病院、デパート等で、ICタグによる自動化が進展してきている。インダストリー4・0は、消費者に、カスタムメイドの製品を提供し、環境保護や省資源のスマートシティが出現してきている。

ビッグデータの特徴は、3V、量(Volume)、多様性(Variety)、速度(Velocity)にあり、そのデータ処理の方法は、① 推測統計から記述統計による全数処理、② 質から量、③ 因果から相関、へと変わってきている。注意しなければならないことは、現象のデータ解析から因果関係が判ったとして、「理由なんて問わない」という背景を検討しない安直な結論の出し方である。

2.人工知能(AI)について

著者は、東京大学、日立製作所でコンピュータを研究されてきただけあって、AIが、論理から論理+知識へと発展し、さらには深層学習、ベイズ統計のデータ処理によって第3次AIブームへと移行してきた歴史について、判りやすく解説されている。そして、2010年代になってシンギュラリティ(技術的特異点、特異点とは、人が生物としての思考と、存在が自ら作りだしたテクノロジーと融合する臨界点)の考え方によって、人工知能が人間を超えるか、とまで言われるようになった。一神教による絶対主義者たちは、脳だけに着目し、脳を機械的に分析すれば心が理解でき、さらに心を再現できると思い込み、人間を超えた知力を持つ超人工知能の幻想を抱いている。

コンピュータが、チェスや将棋のプロに勝ったということは、論理的な知識体系や過去のデータ実績を専門家の能力に置き換えたにすぎない。コンピュータは、静的な過去であり、人間は生物としての動的な現在である。人の暗黙知や本能的価値体系から、現状を打破する多様な、新鮮なアイディアが生まれるものであって、人は、絶えず環境に対応していかなければならない。人工知能は、人間を超えることはできないのである。

これからは、AI(Artificial Intelligence)を、IA(Intelligence Amplifier)に転換

して、AIやビッグデータから専門家にヒントとなる分析結果を提供しつつ、人間の集合知の精度や信頼性を高めていかなければならない。

自動運転車、介護ロボット、医療行為や金融投資へのAIの応用等、この分野の技術は、直ぐそこにまで来ている。人間とコンピュータの間の仕事の切り分け、分担、協働をどう進めるか。これらの技術の適用上の法的責任、プライバシー、セキュリティをめぐって、文系、理系の知恵を結集して行かなくてはならない。

(杉山 哲朗)

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