サイエンス思考(知識を理解に変える実践的方法論)
平成28年08月
U理論とは、MITのオットー・シャーマン博士が、マッキンゼーと共同開発した「過去の延長線上にない変容やイノベーションを個人、ペア、チーム、組織やコミュニティ、そして、社会で起こすための原理と実践方法」である。世界のトップクラスの革新的なリーダー130人にインタビューすることによって体系化され、PDCAのサイクルを「過去からの学習」とし、U理論は「出現する未来から学ぶ」手法と位置付けている。
現在は、グローバルレベルで広がる相互依存が原因となる環境問題等、① ダイナミックな複雑性:多様な原因と結果が時間的、空間的にも絡み合っている、② 社会的な複雑性:関係者の間で価値観、信念、利害が相互に依存している、③ 出現する複雑性:予測不可能の高い、遭遇することの稀な変化へどう対応するか、の3つの複雑性がますます増加してきている。これらは、従来の分析的手法、チームワーク、といったマネジメントだけで対応できない。創造性を高め、人とチームの関係性を高めて創発的な新しい展開により、組織やコミュニティの変革を進める新しいアプローチがU理論である。
手短に言うと、センシング:ただひたすら観察する。プレゼンシング:一歩下がって内省する。内なる「知」が現れるに任せる。クリエイティング:素早く、即興的に行動に移す、であり、さらに7つのステップとして、(1から4を底とするUの字で、7で終わる)
1.ダウンローディング(過去の枠組みの整理)、2.観る、3.感じ取る、4.プレゼンシング、5.結晶化(ビジョン、意図の明確化)、6.プロトタイピング(実行、実験)、7.実践(しくみ、習慣化)に分け、具体的な考え方、やり方を解説している。4.のプレゼンシングは、sensing(感じ取る)、presence(存在)の混成語で、出現する未来の全体の源、つまり出現しようとしている未来の可能性の視座に移行することである。
そして、個人、ペアチーム、組織・コミュニティの実践例と、中で使うツールとして、創発のための問題解決シートや、討議の進め方が紹介されている。
著者は、U理論を、イノベーションを個人、集団、組織、社会で起こすためのテクノロジーといい、組織開発、人材開発のシステムとして、プレゼンシング・インスティチュートコミュニティ・ジャパンが、その実践、学習の場を提供しており、日本企業でも導入している企業が増えているようである。
集団、組織における実践とまでは行かなくても、個人的に、さまざまな社会環境における、評価、判断の声、諦めと皮肉に満ちた声、恐れの声の壁に対して、いかにして自分が積極的に行動するか、開かれた思考、開かれた心、開かれた意志の持ち方等、一連の思考アプローチとして参考になる。(杉山 哲朗)